最近よく耳にする「内勤営業」という働き方について、具体的な仕事内容がイメージできずにいませんか。「外勤営業とは何が違うのだろう」「自分は内勤営業に向いている人なのだろうか」といった疑問や、キャリアとしての将来性に不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
一見するとオフィス内での営業活動とシンプルに捉えられがちですが、その役割や求められるスキルは多岐にわたります。だからこそ、従来の営業スタイルとの違いや、なぜ今この「営業の内勤」というスタイルが注目されているのかを正しく理解しないままでは、キャリアプランを描いたり、自社への導入を検討したりする際に判断に迷ってしまうのです。
内勤営業の基本的な役割から、外勤営業やインサイドセールスとの明確な違い、具体的な仕事内容、そしてキャリアの将来性まで、この職種を正しく理解するための知識がこの記事一つで手に入ります。
- 内勤営業とは、社内から電話やWeb会議システムで営業活動を行うスタイルで、移動がなく効率的です。
- 主な役割は、見込み客の関心を高め(育成)、質の高い商談機会を創出して外勤営業に繋ぐことです。
- 近年は、より戦略的にデータを活用する「インサイドセールス」として、企業の成長に不可欠な役割を担っています。
- 成功の鍵は、外勤営業との明確な役割分担とスムーズな情報連携にあります。
- キャリアとしては、営業プロセスの専門家やチームマネジメントへの道があり、将来性が高い職種です。
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内勤営業とは?注目される背景と基本的な役割
まずは、「内勤営業とは何か」という基本的な定義と、なぜ今この働き方が多くの企業で重要視されているのかについて解説します。
社内から営業活動を行う「内勤営業」の定義
内勤営業とは、その名の通り、オフィスや自宅などの社内拠点から顧客にアプローチする営業スタイルを指します。
顧客先へ直接訪問する外勤営業(フィールドセールス)とは対照的に、電話、メール、Web会議システムといったツールを駆使して、非対面で営業活動を行うのが特徴です。
移動時間が発生しないため、一人ひとりの営業担当者がより多くの顧客と接点を持つことができ、営業活動全体の効率化に大きく貢献します。
なぜ今、内勤営業が注目されているのか?3つの背景
近年、内勤営業の重要性が急速に高まっています。その背景には、主に3つの社会的な変化があります。
1. 働き方改革とリモートワークの普及
政府が主導する働き方改革により、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方が推奨されるようになりました。さらに、コロナ禍を契機にリモートワークやオンライン商談が急速に普及・定着したことで、オフィスにいながら全国の顧客に対応できる内勤営業の価値が再認識されました。
2. DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
多くの企業が営業活動のDXを推進する中で、顧客管理システム(CRM)や営業支援システム(SFA)といったツールが広く導入されるようになりました。内勤営業はこれらのツールとの親和性が非常に高く、データに基づいた科学的なアプローチを実践しやすいという利点があります。
3. 顧客の購買行動の変化
インターネットの普及により、顧客は商品やサービスを購入する前に、自らWebサイトやSNSで情報収集を行うのが当たり前になりました。そのため、企業側からの一方的な売り込みではなく、顧客が必要とする情報を適切なタイミングで提供し、関係性を構築していく内勤営業の役割が重要になっています。
外勤営業やインサイドセールスとの違いは?
内勤営業の役割をより深く理解するために、混同されがちな「外勤営業」や「インサイドセールス」との違いを明確にしておきましょう。
1. 役割と活動範囲の違い:外勤営業(フィールドセールス)との比較
内勤営業と外勤営業の最も大きな違いは、役割と活動のフェーズです。
内勤営業は、主に見込み客(リード)の発見から関係構築、そして商談機会の創出までを担当します。一方、外勤営業は、内勤営業が創出した質の高い商談を引き継ぎ、対面での提案やクロージング(契約締結)に集中するのが一般的です。
このように営業プロセスを分業することで、組織全体の生産性を最大化することができます。
項目 | 内勤営業 | 外勤営業(フィールドセールス) |
---|---|---|
主な役割 | 見込み客の育成、商談機会の創出 | 商談、提案、クロージング |
活動場所 | オフィス、在宅など社内拠点 | 顧客先など社外 |
コミュニケーション手段 | 電話、メール、Web会議など(非対面) | 訪問(対面) |
指標(KPI)の例 | 架電数、アポイント獲得数、商談化率 | 訪問件数、受注件数、受注額 |
2. 目的と手法の違い:インサイドセールスとの関係性
「内勤営業」と「インサイドセールス」は、しばしば同義で使われることがありますが、厳密にはニュアンスが異なる場合があります。
一般的に「内勤営業」は、オフィス内で営業活動を行うという「場所」に焦点を当てた広い概念です。これには、テレアポや営業事務なども含まれることがあります。
一方、「インサイドセールス」は、より戦略的な意味合いが強い言葉です。単に電話をかけるだけでなく、マーケティング部門と連携し、データやツールを活用して見込み客を計画的に育成し、質の高い商談を創出することを目的とします。
近年、多くの企業が導入しているのは、この戦略的な「インサイドセールス」としての役割です。本記事では、このインサイドセールスを含んだ広義の概念として「内勤営業」を扱います。
「インサイドセールス」という概念は、1980年代のアメリカで生まれたと言われています。当時は、高価なITシステムを販売するために、電話を活用して効率的に見込み客を発掘・育成する手法として発展しました。
その後、CRM/SFAといった顧客管理ツールの進化とともに、よりデータドリブンで科学的なアプローチへと進化を遂げ、SaaSビジネスの普及などを背景に、日本でも急速に導入が進んでいます。
内勤営業の具体的な仕事内容
では、内勤営業は具体的にどのような業務を行っているのでしょうか。営業プロセスに沿って、主な4つの仕事内容を見ていきましょう。
1. 見込み客の創出・管理(リードジェネレーション)
営業活動のスタート地点となるのが、見込み客(リード)の創出と管理です。
Webサイトからの問い合わせや資料請求への対応、イベントやセミナーで獲得した名刺情報のデータ化、過去に接点のあった休眠顧客の掘り起こしなどを行います。
獲得したリード情報はCRMなどのツールに入力し、今後のアプローチに備えて正確に管理することが重要です。
2. 見込み客の育成(リードナーチャリング)
すべての見込み客が、すぐに商品やサービスを導入したいと考えているわけではありません。
そこで重要になるのが、電話やメールを通じて継続的にコミュニケーションを取り、顧客にとって有益な情報を提供することで、信頼関係を構築し、購買意欲を高めていく「育成(ナーチャリング)」のプロセスです。
顧客の課題や検討状況をヒアリングし、解決策となるような事例やノウハウを提供することで、「相談するならこの人」というポジションを確立していきます。
3. 商談機会の創出(アポイント獲得)
見込み客の育成が進み、課題が明確化され、サービスへの関心が高まったタイミングを見極めて、具体的な商談の機会を創出します。
単にアポイントを取るだけでなく、顧客の課題、予算、導入時期、決裁者といった情報を事前にヒアリングし、外勤営業がスムーズに商談に入れるよう準備を整えることも重要な役割です。
この情報の質が、その後の受注率を大きく左右します。
4. 既存顧客へのフォローやアップセル・クロスセル
内勤営業の役割は、新規顧客の開拓だけではありません。
契約後の既存顧客に対して、サービスの活用状況をヒアリングしたり、新たな課題に対するサポートを行ったりするのも大切な仕事です。
良好な関係を維持することで、顧客満足度を高め、契約の継続や、より上位のプランへの変更(アップセル)、関連サービスの追加提案(クロスセル)に繋げていきます。
内勤営業に向いている人の特徴とは?求められるスキルも解説
ここまで読んで、「自分は内勤営業に向いている人なのだろうか」と気になった方もいるでしょう。ここでは、内勤営業に求められる人物像やスキルについて解説します。
内勤営業に向いている人の5つの特徴
内勤営業で成果を出す人には、以下のような共通点が見られます。
- 人の話を聴くのが得意(傾聴力):一方的に話すのではなく、顧客の言葉に耳を傾け、本当の課題やニーズを引き出す力がある人。
- 地道な作業が苦にならない(継続力):すぐに成果が出なくても、目標達成のためにコツコツと顧客との関係構築を続けられる粘り強さがある人。
- 目標達成への意欲が高い:設定されたKPI(重要業績評価指標)に対して、どうすれば達成できるかを考え、主体的に行動できる人。
- 論理的に物事を考えられる:顧客の課題を整理し、解決策を分かりやすく説明する力や、データに基づいて次のアクションを考えられる人。
- チームで働くことが好き:外勤営業やマーケティングなど、他部門のメンバーと協力し、組織全体の目標達成に貢献することに喜びを感じる人。
活躍するために必要な3つのスキル
内勤営業として活躍するためには、特に以下の3つのスキルが重要になります。
1. 非対面でのコミュニケーションスキル
表情や身振りが見えない電話やメール、画面越しのWeb会議で、相手の意図を正確に汲み取り、信頼関係を築く高度なコミュニケーション能力が求められます。簡潔で分かりやすい言葉遣いや、相手に合わせたトーンで話す力が不可欠です。
2. ITツールの活用スキル
CRM/SFA、Web会議システム、チャットツールなど、日々の業務で利用するツールの操作に習熟していることは必須です。これらのツールを使いこなし、業務を効率化し、データを活用する能力が成果に直結します。
3. データ分析・活用スキル
顧客データや活動履歴を分析し、「どの顧客に」「どのタイミングで」「どのようなアプローチをすべきか」を判断する能力が求められます。勘や経験だけに頼らず、データに基づいた仮説検証を繰り返す姿勢が重要です。
内勤営業のキャリアパスと将来性
営業職としてのキャリアを考える上で、将来性やキャリアパスは非常に重要な要素です。内勤営業のキャリアについて見ていきましょう。
内勤営業の平均年収の目安
内勤営業の年収は、経験、スキル、業界、企業の規模によって大きく異なりますが、一般的には350万円〜700万円程度が目安とされています。
成果に応じたインセンティブ制度を導入している企業も多く、高い成果を上げれば外勤営業と同等、あるいはそれ以上の収入を得ることも可能です。特に、専門性の高いSaaS業界などでは、高い年収が期待できる傾向にあります。
主なキャリアパスの選択肢
内勤営業で培ったスキルや経験は、多様なキャリアに繋がります。
- 内勤営業チームのマネージャー:チームの目標設定やメンバーの育成、戦略立案などを担う管理職。
- フィールドセールス(外勤営業):顧客との関係構築スキルを活かし、クロージングを担当する最前線の営業へ。 – マーケティング:顧客データを分析し、見込み客創出の施策を企画・実行するマーケターへ。
- カスタマーサクセス:既存顧客の成功を支援し、LTV(顧客生涯価値)の最大化を目指す専門職へ。
データ活用で高まる内勤営業の将来性
内勤営業の将来性は非常に高いと言えます。
厚生労働省の職業情報サイトでも、SaaSビジネスの普及などを背景にインサイドセールス部門を設置する企業が増加し、求人も増加傾向にあると指摘されています。また、国がDX推進の一環としてCRM/SFAといった関連ツールの導入をIT導入補助金で支援していることからも、その重要性がうかがえます。
データに基づいた営業活動が当たり前になる中で、その中核を担う内勤営業は、今後ますます企業の成長に不可欠な存在となっていくでしょう。
成果を出す内勤営業チームを立ち上げる3つのポイント
これから自社に内勤営業を導入しようと考えている管理職の方に向けて、チーム立ち上げを成功させるための3つの重要なポイントを解説します。
1. 外勤営業との明確な役割分担と連携ルールを決める
最も重要なのが、外勤営業との役割分担と連携体制の構築です。
「どの段階になったら外勤営業に引き継ぐのか(トスアップの基準)」、「どのような情報を、どのツールで共有するのか」といったルールを事前に明確に定義しましょう。
この連携が曖昧だと、「質の低いアポばかり回ってくる」「必要な情報が共有されない」といった部門間の対立が生まれ、組織全体の生産性が低下する原因になります。
2. チーム共通の目標(KPI)を設定する
内勤営業の貢献度を正しく評価し、チームのモチベーションを維持するために、適切なKPIを設定することが不可欠です。
単なる「アポイント獲得数」だけを目標にすると、質を度外視したアポイントが増えかねません。そこで、「アポイントからの商談化率」や「受注に繋がった商談数」など、営業プロセス全体への貢献度を測れる質的な指標も組み合わせることが重要です。
3. 情報共有を円滑にするツール環境を整える
内勤営業の生産性は、ツール環境に大きく左右されます。
顧客情報や活動履歴を一元管理するCRM/SFAは、部門間のスムーズな情報連携に欠かせません。また、効率的なコミュニケーションを促進するWeb会議システムやビジネスチャットツールも必須です。
これらのツールを整備し、チーム全員が使いこなせるようにトレーニングを行うことで、業務の属人化を防ぎ、チーム全体のパフォーマンスを底上げできます。
内勤営業チームの立ち上げでよくある失敗が、明確な戦略がないまま「とりあえず電話をかけさせる」ことから始めてしまうケースです。
これでは担当者が疲弊するだけで、質の高い商談は生まれません。成功のためには、まず「どのような顧客に」「どのような情報を提供して」「どのような状態になったら外勤に引き継ぐか」という一連のシナリオを設計することが不可欠です。ターゲット顧客の解像度を上げ、提供価値を定義することから始めましょう。
まとめ:内勤営業はこれからの時代の中心となる営業スタイル
本記事では、内勤営業の基本的な役割から仕事内容、求められるスキル、そして将来性までを網羅的に解説しました。
内勤営業は、もはや単なる「オフィスで行う営業」ではありません。データとツールを駆使して顧客との関係を構築し、営業組織全体の生産性を向上させる、極めて戦略的な役割を担っています。
働き方が多様化し、営業活動のDXが加速する現代において、内勤営業は個人のキャリアにとっても、企業の成長にとっても、大きな可能性を秘めた中心的な営業スタイルと言えるでしょう。
この記事で得た知識が、あなたのキャリア選択や組織の課題解決に向けた、次の一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。