テレアポや飛び込み営業を続けても、なかなか成果に繋がらず疲弊していませんか。「プル型営業」という言葉は知っているけれど、具体的に何から手をつければいいのか、自社で本当にうまくいくのか、不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
多くの企業が同じような悩みを抱える背景には、顧客の情報収集の方法が大きく変化したことがあります。その結果、従来型のプッシュ型営業だけでは顧客に響きにくくなっているのです。しかし、プル型営業を体系的に学ぶ機会は少なく、自己流で始めてみたものの、思ったように効果が出ずに時間とコストだけがかかってしまうケースも少なくありません。
プル型営業の基礎知識から、明日からでも始められる具体的なステップ、そして従来のプッシュ営業と組み合わせることで成果を最大化する秘訣までを網羅的に解説。顧客から「選ばれる仕組み」を作るための、現実的な第一歩をここから始めましょう。
- プル型営業とは、ブログやSNSで有益な情報を発信し、顧客側からあなたを見つけてもらう「待ち」の営業スタイルです。
- まずは、顧客が最も知りたがっている情報(例:製品選びのポイント、業界の最新動向)をテーマに、ブログ記事を1本書いてみることから始めましょう。
- 今すぐテレアポをゼロにする必要はありません。Webで問い合わせてくれた見込み客にだけ電話するなど、両者の「いいとこ取り」が成功の秘訣です。
- 成果が出るには最低でも半年〜1年かかります。短期的な成果を追わず、会社の「情報資産」を育てる長期的な視点を持ちましょう。
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プル型営業とは?プッシュ型営業との違いを解説
プル型営業とプッシュ型営業は、どちらが良い・悪いというものではなく、アプローチの起点が異なる営業手法です。まずはそれぞれの基本的な考え方と違いを理解しましょう。
プル型営業は顧客からのアクションを起点とする「待ち」の営業手法
プル型営業(Pull型営業)とは、ブログやSNS、Webサイトなどで顧客にとって有益な情報を発信し、顧客自身がその情報を見つけ、興味を持って問い合わせてくれるのを「待つ」営業スタイルです。
顧客が自らの意思で情報を探し、能動的にアクションを起こすため、すでに商品やサービスへの関心度が高い状態で接点を持てるのが特徴です。この手法は「インバウンドマーケティング」とも呼ばれ、顧客を「引き寄せる(Pull)」ことからこの名がついています。
プッシュ型営業は企業からのアプローチを起点とする「攻め」の営業手法
一方、プッシュ型営業(Push型営業)は、企業側から顧客に対して積極的にアプローチを仕掛ける「攻め」の営業スタイルです。
テレアポや飛び込み訪問、ダイレクトメールなどが代表的な手法で、企業が伝えたい情報を顧客に「押し出す(Push)」ことから、このように呼ばれています。まだ自社の製品やサービスを知らない潜在顧客にアプローチできるメリットがある一方で、顧客のタイミングやニーズと合わない場合は敬遠されやすい側面もあります。
一目でわかるプル型営業とプッシュ型営業の比較表
プル型営業とプッシュ型営業の違いを、より具体的に理解するために以下の表にまとめました。両者の特性を把握し、自社の状況に合わせて使い分けることが重要です。
比較項目 | プル型営業 | プッシュ型営業 |
---|---|---|
アプローチの方向性 | 顧客 → 企業(インバウンド) | 企業 → 顧客(アウトバウンド) |
主な手法 | コンテンツマーケティング、SEO、SNS、ウェビナー、ホワイトペーパー | テレアポ、飛び込み訪問、展示会、広告、ダイレクトメール |
アプローチ対象 | 自社の課題やニーズを認識している顕在層・準顕在層 | 自社の課題やニーズを認識していない潜在層 |
顧客との関係性 | 信頼関係を築きやすい(相談相手・パートナー) | 関係構築に時間がかかる(売り手と買い手) |
メリット | 質の高い見込み客を獲得しやすい、成約率が高い、LTVが向上しやすい | 短期間で多くの潜在顧客にアプローチできる、新市場を開拓しやすい |
デメリット | 成果が出るまで時間がかかる、専門知識が必要 | 営業効率が低い、担当者の精神的負担が大きい、嫌がられやすい |
なぜ今、プル型営業が重要視されているのか
近年、多くの企業が従来のプッシュ営業だけでなく、プル型営業に注力し始めています。その背景には、単なる流行ではなく、顧客の行動や市場環境の大きな変化があります。
1. 顧客の購買行動の変化でプッシュ型が通用しにくくなった
最大の理由は、インターネットの普及により顧客が情報を得る手段が劇的に変化したことです。
かつて顧客は、企業の営業担当者から情報を得るのが当たり前でした。しかし今では、何か課題を感じたり、商品やサービスの購入を検討したりする際、まずスマートフォンやPCで検索し、自ら情報を集めます。
実際に、ある調査では「B2Bの顧客は、営業担当者に接触する前に購買プロセスの57%を完了させている」というデータも報告されています。この調査は少し前のものであるため、現在ではその割合はさらに高まっていると考えられます。顧客が十分な知識を得た後では、一方的な売り込み型のプッシュ営業は通用しにくくなっているのです。
2. 属人化を防ぎ、安定して成果を出す仕組みを構築できる
「あのエース営業がいなければ、うちの部署の売上は成り立たない」——。このような状況は、多くの企業が抱える課題です。
個人のスキルに依存するプッシュ型営業は、その担当者が退職したり、異動したりすると売上が大きく落ち込むリスクを常に抱えています。一方、プル型営業は、有益なコンテンツや仕組みを通じて集客するため、特定の個人に依存しません。
良質なコンテンツはWeb上に残り続け、24時間365日、新たな見込み客を惹きつける「資産」となります。これにより、営業組織全体として安定した成果を出し続ける仕組みを構築できるのです。
3. 営業担当者の疲弊を防ぎ、コア業務に集中できる
断られ続けるテレアポや、門前払いされる飛び込み訪問は、営業担当者に大きな精神的負担をかけます。成果が出ない活動を続けることはモチベーションの低下を招き、離職に繋がることも少なくありません。
プル型営業を導入することで、自社に興味を持ってくれている見込み客からのアプローチが増えます。これにより、無駄なアプローチが減り、営業担当者は質の高い商談や顧客との関係構築といった、本来集中すべきコア業務に時間とエネルギーを注げるようになります。
プル型営業のメリットと注意すべきデメリット
プル型営業は多くの利点をもたらしますが、導入を成功させるためには、そのメリットとデメリットの両方を正しく理解しておくことが不可欠です。
プル型営業の4つのメリット
プル型営業を導入することで、主に以下の4つのメリットが期待できます。
- 質の高い見込み客(リード)を獲得できる
顧客自身の意思で問い合わせてくるため、課題意識や購買意欲が高い状態で接点を持てます。そのため、商談化率や成約率の向上が期待できます。 - 顧客と長期的な信頼関係を築きやすい
一方的な売り込みではなく、顧客の課題解決に役立つ情報を提供し続けることで、「頼れるパートナー」としての信頼を得やすくなります。信頼関係は、アップセルやクロスセルにも繋がり、顧客生涯価値(LTV)の向上に貢献します。 - 企業のブランディングに繋がる
専門性の高い情報を継続的に発信することで、その分野における第一人者としてのポジションを確立できます。「〇〇のことで困ったら、あの会社に相談しよう」というブランドイメージが定着し、価格競争からの脱却にも繋がります。 - 営業活動を効率化・仕組み化できる
一度作成したコンテンツは、Web上で企業の資産として永続的に機能します。これにより、営業担当者が常に新規開拓に奔走する必要がなくなり、組織全体で効率的に成果を上げられるようになります。
プル型営業で注意すべき3つのデメリット
一方で、プル型営業には以下のような注意点もあります。事前に把握し、対策を講じることが重要です。
- 成果が出るまでに時間がかかる
プル型営業は、種をまいて作物を育てるような長期的な取り組みです。良質なコンテンツを蓄積し、検索エンジンからの評価を得て、見込み客との信頼関係を築くには相応の時間が必要です。一般的に、成果を実感できるまでには最低でも半年から1年程度の期間が必要とされます。短期的な成果を求めすぎない視点が欠かせません。 - コンテンツ作成のコストと手間がかかる
顧客を引きつける質の高いコンテンツ(ブログ記事、ホワイトペーパー、動画など)を作成するには、専門知識やスキルが必要です。企画、執筆、デザイン、分析など、継続的にリソースを投下する必要があります。 - 専門的な知識やノウハウが必要になる
SEO(検索エンジン最適化)やSNSのアルゴリズム、データ分析など、成果を出すためにはマーケティングに関する専門知識が求められます。社内にノウハウがない場合は、外部の専門家を活用したり、学習したりする時間が必要です。
代表的なプル型営業の5つの手法
プル型営業を実践するには、さまざまな手法があります。ここでは、代表的な5つの手法を紹介します。自社の商材やターゲット顧客に合わせて、最適な手法を組み合わせることが成功の鍵です。
1. コンテンツマーケティング(ブログ・SEO対策)
顧客が抱える課題や疑問に対し、ブログ記事などのコンテンツを通じて解決策を提示する手法です。SEO対策を施すことで、検索エンジン経由で継続的に見込み客を集めることができます。企業の知識やノウハウを「資産」として蓄積できる、プル型営業の王道ともいえる手法です。
2. SNSマーケティング
X(旧Twitter)やFacebook、InstagramなどのSNSを活用し、顧客と直接的なコミュニケーションを図る手法です。役立つ情報の発信はもちろん、企業のカルチャーや担当者の人柄を伝えることで親近感を生み、ファンを育てることができます。BtoCだけでなく、BtoBにおいても情報収集や担当者との関係構築の場で活用が広がっています。
3. ウェビナー・セミナーの開催
特定のテーマについてオンライン(ウェビナー)またはオフラインでセミナーを開催し、見込み客を集める手法です。参加者はそのテーマに強い関心を持っているため、質の高いリードを獲得しやすいのが特徴です。質疑応答などを通じて、直接顧客の悩みを聞き出す貴重な機会にもなります。
4. ホワイトペーパー・お役立ち資料の配布
業界の調査レポートや製品の導入事例、ノウハウ集などをまとめた資料(ホワイトペーパー)を作成し、Webサイトからダウンロードできるようにする手法です。ダウンロード時に氏名や連絡先などの個人情報を入力してもらうことで、具体的な見込み客のリストを獲得できます。
5. プレスリリース・PR活動
新製品の発表や新たな取り組みなどをプレスリリースとして配信し、メディアに取り上げてもらう手法です。新聞やWebメディアといった第三者に取り上げられることで、企業の信頼性や認知度を大きく向上させることができます。直接的な営業活動ではありませんが、間接的に問い合わせを増やす効果的なプル型施策です。
失敗しないプル型営業の始め方3ステップ
プル型営業に興味はあっても、「何から始めればいいかわからない」「失敗したくない」と感じる方は多いでしょう。大切なのは、いきなり大規模に始めるのではなく、小さな成功を積み重ねていくことです。ここでは、リスクを抑えながら着実に成果に繋げるための3つのステップを紹介します。
ステップ1:ターゲット顧客(ペルソナ)を明確にする
最初のステップは、「誰に情報を届けたいのか」を具体的に定義することです。
「BtoB企業の営業部長、45歳、部下の育成と営業の仕組み化に課題を感じている」というように、ターゲット顧客の人物像(ペルソナ)を詳細に設定します。ペルソナが明確になることで、その人がどのような情報を、どんな言葉で探しているのかが具体的にイメージでき、響くコンテンツ作りの土台となります。
ステップ2:顧客の課題解決に繋がる価値を提供する
ペルソナが明確になったら、次はその人が本当に知りたい情報、悩みを解決できる情報を提供することに集中します。
ここでのポイントは、「売り込み」をしないことです。自社製品の宣伝ばかりでは、顧客はすぐに離れてしまいます。「製品選びで失敗しないための5つのポイント」「業界の最新動向レポート」など、まずは顧客の役に立つ情報提供を徹底しましょう。信頼関係が生まれれば、自然と自社のサービスにも興味を持ってもらえます。
ステップ3:小さな施策から始めて効果を測定・改善する
完璧な計画を立ててから始める必要はありません。まずは「ブログ記事を1本書いてみる」「SNSで週に1回、役立つ情報を投稿してみる」といった、すぐに始められる小さな一歩からスタートしましょう。
そして、その施策がどれだけ見られたか(閲覧数)、どれだけ問い合わせに繋がったか(コンバージョン数)といった簡単な指標で効果を測定します。うまくいったことは続け、反応が薄かったことはやり方を変えてみる。このPDCAサイクルを小さく回し続けることが、大きな失敗を避け、成功への確実な道を切り拓きます。
プル型営業への移行でつまずきやすいポイントがいくつかあります。事前に知っておくことで、失敗を未然に防ぎましょう。
- 失敗例1:コンテンツが自社の宣伝ばかりになる
顧客が求めているのは課題解決のヒントであり、一方的な宣伝ではありません。コンテンツの8割は顧客への価値提供、2割を自社サービスの紹介、くらいのバランスを意識しましょう。 - 失敗例2:短期的な成果を求めてすぐ諦めてしまう
プル型営業は長期的な取り組みです。開始後すぐに成果が出ないのは当たり前と捉え、最低でも半年は継続する覚悟を持ちましょう。経営層にも、これは短期的な施策ではなく、会社の「情報資産」を育てる長期投資であることを事前に説明し、理解を得ておくことが重要です。 - 失敗例3:コンテンツを作りっぱなしにする
公開したコンテンツは、定期的にパフォーマンスを分析し、リライト(加筆・修正)することで、さらに価値を高めることができます。新しい情報を追記したり、読者の反応を見てタイトルを修正したりと、継続的な改善を心がけましょう。
プル型営業の成功はプッシュ型との連携が鍵
プル型営業とプッシュ型営業は、対立するものではありません。むしろ、両者の強みを理解し、うまく連携させることで、営業活動全体の成果を最大化できます。これからの時代に求められるのは、どちらか一方を選ぶのではなく、両者を組み合わせた「ハイブリッド型」の営業戦略です。
マーケティングで集客し、営業が刈り取る分業体制を築く
理想的な連携モデルの一つが、マーケティング部門と営業部門の分業です。
マーケティング部門がプル型営業の手法(コンテンツマーケティングやウェビナーなど)を用いて、質の高い見込み客を集客・育成します。そして、十分に興味関心が高まった段階で、営業部門にバトンタッチします。営業担当者は、すでに自社に好意的な見込み客に対して、プッシュ型の手法(電話や個別提案など)でクロージングに集中することができます。これにより、各部門が専門性を発揮し、組織全体で効率的に成果を上げることが可能になります。
顧客の検討度合いに合わせてアプローチを使い分ける
顧客の状況に応じて、アプローチを柔軟に切り替えることも重要です。
例えば、ホワイトペーパーをダウンロードしたばかりの顧客(情報収集中)には、すぐに電話をかけるのではなく、まずはメールで別の役立つ情報を提供する(プル型)。その後、Webサイトの料金ページを何度も閲覧しているような顧客(比較検討中)に対しては、電話で「何かお困りごとはありませんか?」とアプローチする(プッシュ型)。
このように顧客の検討度合いを見極め、最適なタイミングで最適なアプローチを使い分けることで、顧客体験を損なうことなく、成約の可能性を高めることができます。
まとめ:プル型営業で顧客から選ばれる仕組みを構築しよう
本記事では、プル型営業の基礎知識から具体的な始め方、そしてプッシュ型営業との連携による相乗効果までを解説しました。
プル型営業は、単なる新しい営業テクニックではありません。顧客の購買行動が変化した現代において、企業が顧客から「見つけられ、選ばれる」ための本質的な仕組み作りです。成果が出るまでには時間がかかりますが、一度仕組みが回り始めれば、それは会社の永続的な資産となり、安定した事業成長を支える土台となります。
完璧を目指す必要はありません。まずはこの記事で紹介した3ステップを参考に、自社にできそうな小さな一歩から始めてみてください。その小さな挑戦が、非効率な営業活動から脱却し、顧客と良好な関係を築く未来への大きな一歩となるはずです。