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ナレッジマネジメントで暗黙知を活かすには?属人化を防ぎ、組織の財産に変える方法

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「ベテラン社員が退職したら、あの長年の勘やコツも一緒に失われてしまうのでは?」「業務が特定の人に集中していて、その人がいないと仕事が止まってしまう…」そんな不安を感じていませんか。ナレッジマネジメントで個人の暗黙知を共有する必要性は分かっていても、具体的に何から手をつければ良いのか、頭を悩ませている方は少なくありません。

その背景には、ナレッジマネジメントを体系的に学ぶ機会が少ないという現実があります。そのため、多くの企業が手探りで進めてしまい、「せっかくマニュアルを作っても誰も更新せず形骸化する」「現場の協力が得られず、担当者だけが空回りしてしまう」といった壁にぶつかりがちなのです。特に、個人の頭の中にあるナレッジ、つまり暗黙知から形式知への変換は、一筋縄ではいきません。

この記事を読めば、なぜ暗黙知の共有が重要なのかという基本から、具体的な進め方、そして多くの企業が陥りがちな失敗の原因と対策まで、組織のナレッジを資産に変えるための実践的な方法がわかります。

この記事の結論
  • まず「暗黙知(ベテランの勘やコツ)」を「形式知(マニュアルなど)」に変える重要性を理解しましょう。
  • 成功の鍵は、理論(SECIモデル)をそのまま実行するのではなく、自社の状況に合わせて「小さな成功体験」を積むことです。
  • ツール導入を急ぐのは失敗のもと。まずは「なぜ知識共有が必要か」目的をチームで共有し、協力体制を築くことから始めましょう。
  • ベテランの協力を得るには、敬意を示し「あなたの知恵を会社の未来のために貸してほしい」と伝えることが効果的です。

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目次

なぜナレッジマネジメントで「暗黙知」の共有が重要なのか

企業の競争力は、従業員一人ひとりが持つ知識やスキルに支えられています。

しかし、その貴重なナレッジが個人の頭の中に留まったままだと、組織の成長を妨げる大きなリスクになりかねません。

ここでは、なぜナレッジマネジメント、特に「暗黙知」の共有が重要視されるのか、その理由を解説します。

個人の経験や勘に頼る「属人化」が引き起こすリスク

「この件は、Aさんでないと分からない」という状況、あなたの職場にもありませんか。

このように、特定の業務が特定個人のスキルや経験に依存している状態を「属人化」と呼びます。

属人化は、一見するとその人が活躍しているように見えますが、組織全体にとっては多くのリスクをはらんでいます。

  • 業務の停滞・ブラックボックス化:担当者が退職・休職・異動した場合、業務が完全にストップしてしまう可能性があります。また、業務プロセスが他の人から見えなくなり、改善の機会も失われます。
  • 品質のばらつき:担当者によって成果物の品質が大きく異なり、組織として安定したサービスや製品を提供できなくなります。
  • 若手・新人の育成遅延:OJTが特定のベテラン頼りになり、その人の指導方法や忙しさによって育成スピードが左右されてしまいます。体系的な教育ができず、組織全体のスキルアップが遅れる原因にもなります。

これらのリスクを回避し、組織として持続的に成長していくために、個人のナレッジを組織全体の資産として共有する「ナレッジマネジメント」が不可欠なのです。

そもそも暗黙知と形式知とは?違いを具体例で解説

ナレッジマネジメントを理解する上で欠かせないのが、「暗黙知」と「形式知」という2つの概念です。

この2つの違いを理解することが、効果的な知識共有の第一歩となります。

暗黙知とは

個人の経験や勘、直感に基づく知識のことで、言葉や文章で表現するのが難しい知識を指します。

例えば、「ベテラン営業担当者の顧客の機微を察する力」や「熟練職人の絶妙な手加減」などがこれにあたります。属人化の原因となるのは、主にこの暗黙知です。

形式知とは

マニュアル、手順書、設計図、報告書など、言葉や図、数式で客観的に表現された知識のことです。

誰でも理解・共有しやすいのが特徴で、例えば「料理のレシピ」や「ソフトウェアの操作マニュアル」などが形式知にあたります。

効果的なナレッジマネジメントとは、この言語化しにくい「暗黙知」を、誰もが活用できる「形式知」へと変換し、組織全体で共有・発展させていく取り組みに他なりません。

暗黙知を組織のナレッジに変える「SECI(セキ)モデル」とは

では、具体的にどのようにして個人の暗黙知を組織の形式知に変えていけばよいのでしょうか。

そのプロセスを体系的に示したのが、経営学者である野中郁次郎氏が提唱した「SECI(セキ)モデル」です。

SECIモデルは、以下の4つのプロセスを繰り返すことで、個人の知識が組織全体の知識へと昇華していく様子を表しています。これは一度きりのプロセスではなく、螺旋階段を上るように知識が深化・拡大していく「ナレッジ・スパイラル」という動的な概念です。

1. 共同化(Socialization):体験を共有し、共感する段階

最初のステップは、暗黙知を暗黙知のまま他者に伝える「共同化」です。

これは、同じ体験を共有することで、言葉にしなくても感覚やコツを伝達するプロセスを指します。

  • 具体例:OJT(On-the-Job Training)で先輩の仕事ぶりを間近で見る、営業に同行して顧客とのやり取りを肌で感じる、師匠の技を見て盗む(徒弟制度)など。

この段階では、理屈よりもまず「やってみる」「見て学ぶ」ことが重視されます。

2. 表出化(Externalization):暗黙知を言葉や図で表現する段階

次に、共同化で得た暗黙知を、誰もが理解できる形式知へと変換する「表出化」のプロセスに移ります。

これはSECIモデルの中でも最も重要かつ難しい段階です。

  • 具体例:ベテラン社員にインタビューして業務のコツを聞き出す、ディスカッションを通じて成功要因を言語化する、業務フローを図に描き起こす、マニュアルや手順書を作成するなど。

対話や比喩、アナロジー(類推)などを使いながら、頭の中にある漠然としたイメージを具体的な言葉や図に落とし込んでいきます。

3. 連結化(Combination):形式知を組み合わせ、体系化する段階

表出化によって生まれた形式知を、他の形式知と組み合わせ、より価値の高い新たなナレッジを創造するのが「連結化」です。

バラバラだった知識を整理・体系化し、組織の資産として活用できる形に整えます。

  • 具体例:複数の成功事例レポートを分析して共通の勝ちパターンを見つけ出す、部署ごとに作られたマニュアルを統合して全社的な業務標準を作成する、FAQサイトや社内wikiを構築するなど。

この段階を経ることで、知識がより利用しやすく、応用範囲の広いものになります。

4. 内面化(Internalization):体系化された知識を実践で体得する段階

最後のプロセスは、体系化された形式知を個人が実践を通じて自分のものにし、新たな暗黙知として体得する「内面化」です。

  • 具体例:作成されたマニュアルを読み込んでトレーニングを積む、データベース化された過去の事例を参考にシミュレーションを行うなど。

この内面化によって、組織のナレッジが個人のスキルとして定着し、さらなる改善や新たな発見に繋がります。そして、この新たな暗黙知が、再び「共同化」のプロセスへと繋がり、知識創造のサイクルが回り続けていくのです。

SECIモデルを回すコツは「完璧を目指さない」こと

SECIモデルを実践しようとすると、特に「表出化(暗黙知を言葉にする)」の段階で完璧なマニュアルを作ろうとしてしまい、担当者が疲弊して頓挫するケースがよくあります。

最初から100点満点の形式知を目指す必要はありません。

まずは箇条書きのメモや簡単なフロー図でも構いません。不完全でも良いので一度形式知化し、それを「内面化」の段階で実際に使ってみる。そして、使った人が「ここが分かりにくい」「この情報も欲しい」とフィードバックし、改善していくサイクルを回すことが重要です。

「まず作ってみる→使ってみる→改善する」という小さなサイクルを繰り返すことが、ナレッジ・スパイラルを回し続ける秘訣です。

現場でナレッジマネジメントを成功させるための現実的な進め方

理論は分かっても、いざ現場で実践しようとすると「何から手をつければいいのか」「どうすれば協力してもらえるのか」と悩んでしまうものです。

ここでは、ツール導入ありきではない、現実的で失敗しにくいナレッジマネジメントの進め方を3つのステップで解説します。

ステップ1:まずはツールなしで小さく始める

ナレッジマネジメントと聞くと、高機能な専用ツールを導入しなければならないと考えがちですが、それは失敗のもとです。

まずはツールを使わず、今ある環境で「知識を共有する文化」の土台作りから小さく始めましょう

  • 週1回15分のノウハウ共有会:チームミーティングの冒頭で、各メンバーが「今週うまくいったこと」「便利な小技」などを1分程度で共有する時間を作ります。
  • チャットでの成功事例共有:普段使っているビジネスチャットに「#成功事例」のような専用チャンネルを作り、顧客に喜ばれた対応や業務効率化の工夫などを気軽に投稿してもらいます。
  • 部署横断の勉強会:特定のテーマ(例:Excelの便利機能、効果的なプレゼン資料の作り方)について、得意な人が講師役となって有志で勉強会を開催します。

大切なのは、共有することの価値や楽しさを体験してもらうことです。小さな成功体験を積み重ねることで、本格的な導入への協力も得やすくなります。

ステップ2:「共有した人が損をする」文化を変える

自分のノウハウを教えたら、自分の価値が下がってしまう」と感じる人がいる限り、ナレッジの共有は進みません。

知識を共有することが評価され、称賛される文化を意図的に作ることが不可欠です。

実際に、経済産業研究所(RIETI)などの調査研究では、個人の業績を重視する短期的な成果主義の評価制度が、従業員の知識共有を妨げる可能性があると指摘されています。

個人の競争を煽るのではなく、チームとしての成果を重視する仕組みが必要です。

  • 評価制度への反映:部下や後輩の育成への貢献度や、有益なナレッジを共有した回数などを評価項目に加えることを検討します。
  • 感謝を伝える仕組み:チャットのリアクション機能で積極的に感謝を伝えたり、「今月のナレッジスター」のような形で共有してくれた人を称賛したりする場を設けます。
  • マネージャーからの働きかけ:上司が率先して部下のナレッジ共有を褒め、その価値をチーム全体に伝えることで、「共有することは良いことだ」という雰囲気を作ります。

ステップ3:手間をかけさせない「形式知化」の仕組みを作る

現場の従業員にとって、通常業務に加えてマニュアル作成などの作業が増えるのは大きな負担です。

できるだけ手間をかけさせず、自然にナレッジが蓄積される仕組みを作りましょう

  • 動画マニュアルの活用:PCの操作手順などは、スクリーン録画ツールを使えば簡単に動画マニュアルが作成できます。文章で説明するより早く、正確に伝わります。
  • テンプレートを用意する:報告書や議事録など、文書のフォーマットを統一し、誰でも必要な項目を埋めるだけで形式知化できるようにします。
  • 入力項目を最小限にする:あれもこれもと情報を詰め込もうとせず、「これだけは絶対に記録する」という必須項目を3つ程度に絞り込み、入力のハードルを下げます。

「忙しい中でも、これくらいならできる」と思ってもらえるような、現場目線の仕組み作りが継続の鍵です。

ベテランの協力を得るためのコミュニケーション術

属人化解消の鍵を握るベテラン社員の協力は不可欠ですが、一方的に「ノウハウを出してください」と要求しては反発を招きかねません。

大切なのは、敬意を示すことです。「これまで会社を支えてきたあなたの知恵や経験は、会社にとってかけがえのない財産です。その貴重なナレッジを、どうか未来のために貸していただけませんか?」という姿勢でお願いすることが重要です。

インタビューの際は、聞き役に徹し、相手が気持ちよく話せる雰囲気を作りましょう。彼らの功績を認め、未来の担い手を育てるための重要な役割をお願いすることで、プライドを尊重しつつ協力を引き出すことができます。

ナレッジマネジメントで暗黙知の共有が失敗する3つの原因と対策

多くの企業がナレッジマネジメントに取り組む一方で、残念ながらうまくいかずに形骸化してしまうケースも少なくありません。

ここでは、よくある失敗原因とその対策を知り、同じ轍を踏まないように備えましょう

原因1:目的が曖昧なまま「ツール導入」が目的化してしまう

最も多い失敗パターンが、目的を明確にしないまま高機能なツールを導入し、それを使うこと自体が目的になってしまうケースです。

対策:

ツール導入の前に、「何のためにナレッジマネジメントを行うのか」という目的を徹底的に議論し、関係者間で合意形成することが重要です。

例えば、「新入社員の立ち上がり期間を3ヶ月から1ヶ月に短縮する」「問い合わせ対応の時間を20%削減する」など、具体的で測定可能な目標を設定しましょう。目的が明確であれば、本当に必要な機能は何か、どのような運用ルールが必要かが見えてきます。

原因2:情報が更新されず誰も見なくなる「形骸化」

導入当初は盛り上がっても、次第に情報が更新されなくなり、内容が古くなって誰も見向きもしなくなる「形骸化」も典型的な失敗です。

ある調査によれば、ナレッジマネジメントツールを導入した企業の約3割が「あまり活用されていない」「全く活用されていない」と回答しており、その最大の理由が「情報が更新されず、形骸化した」ことでした。

対策:

情報の鮮度を保つための「仕組み」を設計することが不可欠です。

  • 情報管理の責任者を決める:各カテゴリや部署ごとに、情報の整理や更新を促す担当者を決めます。
  • 更新ルールを定める:「月に一度は内容を見直す」「情報が古くなった場合はアーカイブする」といった簡単なルールを作り、徹底します。
  • 「とりあえず投稿」を歓迎する:完璧な情報でなくても、まずは投稿してもらうことを優先し、後から詳しい人が追記・修正できるような文化を作ります。

原因3:現場の従業員を巻き込めず「やらされ仕事」になる

経営層や推進担当者だけが意気込み、現場の従業員が「また面倒な仕事が増えた」と感じてしまうと、ナレッジマネジメントは「やらされ仕事」になり、定着しません。

対策:

ナレッジ共有が現場の従業員にとってどのようなメリットがあるのかを、彼らの目線で丁寧に説明することが重要です。

「過去の事例を検索できれば、企画書作成の時間が短縮できる」「他の人のノウハウを学べば、自分のスキルアップに繋がる」といった具体的なメリットを伝えましょう。

また、各部署から推進のキーパーソンを選出し、一緒にルール作りを進めるなど、現場を巻き込みながら「自分たちのための取り組み」にしていくプロセスが成功の鍵となります。

まとめ:暗黙知は組織の成長を加速させる貴重な資産

ベテラン社員の頭の中にある経験や勘、すなわち「暗黙知」は、放置すれば属人化というリスクになりますが、適切に共有・活用すれば組織の成長を加速させる貴重な資産に変わります。

ナレッジマネジメントによる暗黙知の形式知化は、単に業務マニュアルを整備するだけの守りの活動ではありません。

それは、個人の知恵を組織の力に変え、新たなイノベーションを生み出し、変化に強いしなやかな組織文化を育むための、未来への投資です。

この記事で紹介したSECIモデルや実践的なステップを参考に、まずは完璧を目指さず、ツールなしの小さな共有活動から始めてみてください。

その一歩が、組織の未来を大きく変えるきっかけになるはずです。

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