古物商の運営にあたり、「現在の本人確認方法で、古物営業法を遵守できているだろうか」と不安に感じていませんか。「非対面での買取が増えたけれど、郵送でのやり取りはお客様を待たせてしまうし、手間もかかる」といった課題を抱えている方も少なくないでしょう。
非対面取引が当たり前になった今、古物営業法における本人確認の重要性はますます高まっています。しかし、その方法は多様化しており、どの方法が自社の運用やコストに見合っているのか判断が難しいのが実情です。その結果、従来通りの非効率な方法を続けてしまい、顧客満足度の低下や、気づかぬうちに法律違反を犯してしまうリスクに繋がりかねません。
古物営業法が定める本人確認の基本から、対面・非対面それぞれの具体的な方法、見落としがちな例外ケース、そして違反した場合の罰則まで、事業者が知るべきポイントを網羅的に解説します。
- 古物営業法では非対面取引時に厳格な本人確認が義務付けられており、違反すると営業停止や罰則のリスクがあります。
- 従来の郵送による本人確認は時間がかかり顧客離脱の原因になりますが、eKYCならスマホで完結し、最短即日で確認が完了するため成約率向上が期待できます。
- 1万円未満の取引でも、CDやゲームソフト、書籍などは本人確認が必須です。自社の商材が例外に該当しないか必ず確認しましょう。
- 社内の運用ルールを明確にし、全従業員が同じ基準で対応できるマニュアルを整備することが、コンプライアンス遵守の鍵となります。
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そもそも古物営業法の本人確認義務とは?
古物営業法における本人確認義務とは、古物商が古物を買い受ける際に、取引相手の身元を確認することを法律で義務付けたものです。
この義務の主な目的は、盗品などの犯罪被害品が市場に流通することを防ぎ、万が一流通してしまった場合に、その経路を速やかにたどれるようにすることにあります。
古物営業法第15条で定められており、事業者にとってはコンプライアンスの根幹をなす重要なルールです。適切な本人確認を行うことは、自社の事業を法的なリスクから守るだけでなく、社会的な信頼を維持するためにも不可欠と言えます。
【対面・非対面】古物営業法で定められた本人確認の具体的な方法
古物営業法で認められている本人確認の方法は、お客様と直接顔を合わせる「対面取引」か、オンラインや宅配などで行う「非対面取引」かによって異なります。
それぞれの取引形態に応じた正しい方法を理解し、実践することが重要です。
1. 対面取引での本人確認方法
店舗での買取など、お客様と直接対面して取引を行う場合は、以下のいずれかの方法で本人確認を行います。
- お客様から身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード、健康保険証など)の提示を受ける。
- お客様自身に、住所、氏名、職業、年齢を記載した文書へ署名してもらう。
実務上は、偽造のリスクが低く、顔写真で本人性を確認できる運転免許証やマイナンバーカードなどの提示を求めるのが一般的です。
2. 非対面取引での本人確認方法
インターネットや電話、宅配などを利用した非対面取引では、対面取引よりも厳格な本人確認が求められます。
これは、なりすましなどの不正リスクが高まるためです。非対面取引で認められている方法は複数あり、それぞれに特徴があります。次章で詳しく見ていきましょう。
【非対面取引】特に注意が必要な本人確認の4つの方法
オンライン買取や宅配買取など、非対面での古物の受け渡しを行う事業者にとって、本人確認は特に注意が必要な業務です。
ここでは、法律で認められている代表的な4つの方法と、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
1. 身分証明書のコピーなどを送付してもらう方法
お客様から身分証明書のコピーや画像を、郵送または電子メールなどで送付してもらう、従来からある一般的な方法です。
この方法単体では不十分であり、必ず下記のいずれかの措置を組み合わせる必要があります。
- コピーに記載された住所宛に、転送不要の簡易書留などを送付して到着を確認する。
- コピーに記載された本人名義の預貯金口座に、古物の代金を振り込む。
手軽に始められますが、郵送に時間がかかる、書類に不備があった場合のやり取りが煩雑、偽造された身分証を見抜くのが困難といったデメリットがあります。
2. 本人限定受取郵便などを利用する方法
お客様の住所宛に「本人限定受取郵便」を送付し、お客様が郵便局員に身分証明書を提示して受け取ることで本人確認とする方法です。
郵便局員が直接本人確認を行うため、非常に確実性が高いのがメリットです。一方で、郵送料金に加え、専用のサービス料がかかるためコストが高くなる点や、お客様が郵便物を受け取る手間と時間がかかる点がデメリットと言えます。
3. 本人の預金口座へ古物の代金を振り込む方法
お客様から身分証明書のコピーまたは画像の送付を受け、さらにその本人名義の預金口座へ代金を振り込むことで本人確認とする方法です。
身分証明書の氏名・住所と、振込口座の名義人が一致することを確認することで、本人性を担保します。比較的シンプルですが、身分証明書のコピーの真贋を見極めるのが難しいという課題は残ります。
4. eKYC(オンライン本人確認)を利用する方法
eKYC(electronic Know Your Customer)は、スマートフォンやPCを使い、オンラインで本人確認を完結させる方法です。
犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)で認められている手法で、主に以下のような方法があります。
- 【ホ方式】お客様がスマホで撮影した身分証明書の画像と、本人の容貌(顔写真)の画像を送信する方法。
- 【ヘ方式】身分証明書(マイナンバーカード等)のICチップ情報を読み取り、本人の容貌の画像を送信する方法。
- 【ワ方式】マイナンバーカードの公的個人認証サービス(JPKI)を利用する方法。
お客様は自宅にいながら最短即時で手続きを完了でき、事業者は確認業務を大幅に効率化できます。顧客体験の向上とコンプライアンス強化を両立できる、最も先進的な方法です。
本人確認が不要になる例外ケースとは?
古物営業法では、すべての取引で本人確認が義務付けられているわけではなく、特定の条件下では免除されるケースがあります。
ただし、その例外にはさらに「例外の例外」とも言える注意点が存在するため、正確な理解が不可欠です。
原則は対価の総額が1万円未満の取引
古物営業法第15条および施行令第18条により、原則として対価の総額が1万円未満である場合は、本人確認義務が免除されます。
例えば、買取価格が9,000円の商品であれば、法律上は本人確認を行わなくてもよいとされています。ただし、これはあくまで原則です。
1万円未満でも本人確認が必要な品目に注意
たとえ買取価格が1万円未満であっても、以下の品目については盗品が出回りやすいなどの理由から、例外的に本人確認が義務付けられています。
- 自動二輪車及び原動機付自転車(これらの部品を含む)
- 書籍
- ゲームソフト
- CD、DVD、Blu-rayなどの光ディスク
これらの品目を取り扱う事業者は、金額にかかわらず必ず本人確認を行わなければなりません。「1万円未満だから不要」と誤解していると、意図せず法律違反を犯してしまうため、自社の取扱商材が該当しないか必ず確認してください。
古物営業法では、本人確認を行った取引について、その記録を原則として3年間保管することが義務付けられています(古物営業法第16条)。
記録すべき内容は、取引年月日、古物の品目と数量、古物の特徴、相手方の氏名・住所・年齢・職業などです。警察から捜査協力の要請があった際に、速やかに提出できるよう、これらの情報を正確に記録し、適切に管理する体制を整えておく必要があります。本人確認だけでなく、記録の保管もセットで重要な義務と覚えておきましょう。
古物営業法の本人確認義務に違反した場合の罰則
もし、古物営業法で定められた本人確認義務を怠った場合、厳しい罰則が科される可能性があります。
法律違反は事業の存続に関わる重大なリスクとなるため、その内容を正しく理解しておくことが重要です。
本人確認義務に違反した場合の罰則は、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金、もしくはその両方」と定められています。
さらに、刑事罰だけでなく、公安委員会による行政処分の対象にもなり得ます。悪質な違反や繰り返しの違反が認められた場合、営業停止命令や、最悪の場合は古物商の許可取り消しといった重い処分が下される可能性もあります。これは、事業の継続そのものが不可能になることを意味します。
本人確認業務を効率化し、違反リスクをゼロにするには?
コンプライアンスを遵守し、事業を安定的に成長させるためには、本人確認業務のあり方を見直すことが不可欠です。
特に、従来の郵送などによる本人確認は、「時間とコスト」「顧客の離脱」「不正リスク」といった多くの課題を抱えています。
これらの課題を解決し、違反リスクをゼロに近づける有効な手段が、eKYCの導入です。eKYCは、単なる業務効率化ツールにとどまらず、事業に「守り」と「攻め」両面のメリットをもたらします。
コンプライアンス強化と業務品質の標準化
eKYCを導入することで、本人確認のプロセスがシステム化・自動化されます。
これにより、担当者による確認漏れや判断基準のブレといった人的ミスを根本から防ぐことができます。全従業員が同じ基準で、法律に準拠した高精度な本人確認を行えるようになるため、業務品質が標準化され、コンプライアンス体制が大幅に強化されます。
顧客体験の向上による買取成約率アップ
お客様にとって、面倒で時間のかかる手続きは大きなストレスです。郵送でのやり取りでは、商品を送ってから査定額が振り込まれるまでに数日以上かかることも珍しくありません。
eKYCであれば、スマートフォン一つで場所を選ばず、最短即時で本人確認が完了します。このスピーディーで快適な体験は、顧客満足度を大きく向上させ、「手続きが面倒だからやめよう」という途中離脱を防ぎます。結果として、買取の成約率アップに直結し、売上向上に貢献します。
まとめ
古物営業法における本人確認は、盗品流通の防止という社会的な要請に応え、自社の事業を法的なリスクから守るための重要な義務です。
対面・非対面といった取引形態に応じた正しい方法を理解し、特に1万円未満でも本人確認が必須となる品目などの例外規定を正確に把握することが、コンプライアンス遵守の第一歩となります。
本人確認義務違反には厳しい罰則が科されるリスクがある一方で、eKYCのような新しい技術を活用すれば、業務を効率化し、顧客体験を向上させることも可能です。
自社の状況に合った最適な本人確認プロセスを構築し、法令を遵守しながら事業を成長させていきましょう。