営業で手紙を活用したいけれど、何から書けばいいか分からず困っていませんか。「お客様に失礼にならないだろうか」「本当にアポイントにつながるのだろうか」といった不安や、手間に対する効果を考えると、なかなか一歩が踏み出せない方も多いのではないでしょうか。
メールでのやり取りが主流になった今、ビジネスにおける手紙の書き方を体系的に学ぶ機会は少なくなりました。その結果、いざという時に正しい言葉遣いや構成が分からず、作成に時間がかかりすぎたり、テンプレートをただ写すだけになってしまい、かえって気持ちが伝わらないという事態に陥りがちです。
営業手紙の基本構成から、今すぐ使えるシーン別の例文、そしてライバルに差をつける応用テクニックまで、あなたの営業活動を後押しする知識を網羅的に解説。
- 営業手紙の基本構成は「挨拶→本題→結び」。この型を守れば大きく外すことはありません。
- まずは商談後のお礼状など、感謝を伝える場面から始めてみましょう。これが最も失敗が少ない第一歩です。
- 全文手書きは不要です。PC作成の文面に、手書きで一言「〇〇様、先日はありがとうございました。」と添えるだけで効果は絶大です。
- 売り込みたい気持ちを抑え、「相手の役に立ちたい」という姿勢で書くことが、結果的に相手の心を動かす最大のコツです。
「アカウント戦略」「営業戦略」の解像度を飛躍的に高める
なぜ今、営業手紙が効果的なのか?デジタル時代に差がつく理由
毎日大量のメールが届く現代において、なぜ手間のかかる「手紙」なのでしょうか。その理由は、デジタルが当たり前になったからこそ、アナログな手法が際立ち、相手の心に響きやすくなるためです。
メールボックスに届く何十通もの営業メールは、タイトルだけで開封されずに削除されてしまうことも少なくありません。一方、物理的に届く封書やハガキは、手に取って中身を確認してもらえる確率が格段に高まります。丁寧な言葉で綴られた手紙は、送り手の誠意や人柄を伝え、記憶に残りやすいという大きなメリットがあります。
また、顧客との関係構築においても、手紙営業は非常に有効です。マーケティングの世界には「1:5の法則」という経験則があります。これは、新規顧客の獲得コストは既存顧客の維持コストの5倍かかるというものです。業界や状況によってはコスト差がさらに大きくなる(一説には最大25倍とも言われる)ため、いかに顧客との関係を維持し、深めていくかが重要になります。手紙は、こうした大切な顧客との繋がりを強化するための、強力なツールとなり得るのです。
【基本】失敗しない営業手紙の書き方と構成
営業手紙には、相手に失礼な印象を与えないための基本的な「型」があります。この構成さえ押さえておけば、誰でも迷うことなく、丁寧で分かりやすい手紙を書くことができます。まずは基本の道具選びから見ていきましょう。
1. 準備するもの(便箋・封筒・筆記用具の選び方)
手紙の内容はもちろんですが、便箋や封筒といった道具も第一印象を左右する重要な要素です。ビジネスシーンでは、以下の点を意識して選びましょう。
- 便箋:白無地の縦書き用が最もフォーマルです。罫線はあっても問題ありませんが、キャラクターものや派手な色柄は避けましょう。
- 封筒:便箋のサイズに合わせ、白無地の和封筒(縦長)を選びます。中身が透けないよう、二重封筒だとより丁寧な印象になります。
- 筆記用具:黒または濃い青のインクを使いましょう。万年筆が最も丁寧ですが、にじみにくいボールペンでも問題ありません。消せるボールペンは避けましょう。
- 切手:ビジネスシーンでは、キャラクターなどの記念切手よりも、普通の切手を選ぶのが無難です。料金不足にならないよう、事前に重さを確認することも大切です。
2. 営業手紙の基本構成とそれぞれの役割
ビジネスレターは、大きく分けて「前文」「主文」「末文」「後付」の4つの要素で構成されます。それぞれの役割を理解し、流れに沿って書いていきましょう。
- 前文(ぜんぶん):手紙の導入部分です。
- 頭語(とうご):「拝啓」など、手紙の冒頭にくる挨拶です。
- 時候の挨拶:季節感を表す言葉です。「〇〇の候、貴社ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。」といった定型句を使います。
- 相手を気遣う言葉:「平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。」など、日頃の感謝を伝えます。
- 主文(しゅぶん):手紙の中心となる、最も伝えたい用件を書く部分です。
- 起辞(きじ):「さて」「このたびは」といった、本題に入るための書き出しの言葉です。
- 用件:伝えたい内容を分かりやすく、簡潔に記述します。
- 末文(まつぶん):手紙の締めくくりの部分です。
- 結びの挨拶:「末筆ではございますが、貴社のますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。」など、相手の繁栄や健康を願う言葉で締めくくります。
- 結語(けつご):「敬具」など、頭語とセットで使う結びの言葉です。
- 後付(あとづけ):手紙の末尾に記載する情報です。
- 日付:手紙を書いた年月日を記載します。
- 署名:会社名、部署名、役職、氏名をフルネームで記載します。
- 宛名:相手の会社名、部署名、役職、氏名をフルネームで記載します。会社名には「御中」、個人名には「様」をつけます。
3. 押さえておきたい敬語と時候の挨拶
ビジネスシーンにふさわしい言葉を選ぶことで、より丁寧な印象を与えることができます。特に時候の挨拶は、季節感を大切にする日本ならではの文化です。いくつか例を挙げておきますので、参考にしてください。
- 春(3月~5月):春暖の候、陽春の候、若葉の候
- 夏(6月~8月):入梅の候、盛夏の候、残暑の候
- 秋(9月~11月):初秋の候、秋冷の候、晩秋の候
- 冬(12月~2月):初冬の候、厳寒の候、余寒の候
季節を問わず使える「時下」という言葉もありますが、季節の挨拶を入れる方がより丁寧な印象になります。
「営業手紙はすべて手書きで書くべき?」と悩む方も多いですが、必ずしもその必要はありません。むしろ、長文を手書きで書くと読みにくくなってしまったり、作成に時間がかかりすぎたりするデメリットもあります。
おすすめは、本文はPCで作成し、宛名や署名、そして一言メッセージだけを手書きにする「ハイブリッド型」です。PC作成の読みやすさと、手書きの温かみの両方のメリットを活かすことができます。
特に「先日はありがとうございました」「〇〇様にお会いできるのを楽しみにしております」といった一言が手書きで添えられているだけで、受け取った側の印象は大きく変わります。効率と効果のバランスを考え、最適な方法を選びましょう。
【シーン別】今すぐ使える営業手紙・営業ハガキの例文集
ここでは、営業活動でよくある5つのシーン別に、すぐに使える営業手紙の例文を紹介します。自社の状況に合わせてアレンジし、ご活用ください。営業ハガキの例文としても応用できます。
1. 新規開拓・アポイント獲得を目指す手紙(営業レター)の例文
まだ取引のない企業へアプローチする際は、一方的な売り込みではなく、「貴社のお役に立てる情報がある」というスタンスで書くことが重要です。相手のメリットを明確に提示し、興味を引くことを目指しましょう。
【例文】
拝啓
時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
突然のお手紙失礼いたします。私、株式会社〇〇の〇〇と申します。
貴社のウェブサイトを拝見し、特に〇〇事業における先進的な取り組みに大変感銘を受けました。実は、私どもが提供しておりますサービス「△△」は、貴社のような〇〇業界の企業様における業務効率化の分野で多くの実績がございます。
もしよろしければ、一度、弊社のサービスがどのようにお役立てできるか、具体的な事例を交えてご紹介させていただく機会を頂戴できませんでしょうか。
詳しい資料を同封いたしましたので、ご一読いただけますと幸いです。
末筆ではございますが、貴社のますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。
敬具
2. 商談・アポイント後のお礼の手紙の例文
商談後のお礼は、スピードが命です。記憶が新しいうちに感謝の気持ちを伝えることで、好印象を決定づけることができます。商談内容を振り返り、具体的な言葉で感謝を伝えるのがポイントです。
【例文】
拝啓
先日はご多忙の折、貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございました。
〇〇様からお伺いした〇〇という課題につきまして、弊社サービスがお力になれると改めて確信いたしました。特に、〇〇様が懸念されていた点については、□□という機能で解決できるかと存じます。
まずは取り急ぎ、面談の御礼を申し上げたくお手紙を差し上げました。
季節の変わり目ですので、どうぞご自愛ください。
敬具
3. 既存顧客へのフォロー・関係構築の手紙の例文
安定した取引があるお客様にも、定期的なフォローは欠かせません。用件がなくても、業界の最新情報や相手の興味に合いそうな情報を提供することで、良好な関係を維持できます。
【例文】
拝啓
秋冷の候、〇〇様におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
さて、先日の業界紙にて、〇〇様が関心をお持ちだった〇〇に関する特集記事がございましたので、ご参考までにお送りいたします。貴社の今後の事業展開の一助となれば幸いです。
弊社サービスについて、何かお困りの点やご不明な点などございましたら、いつでもお気軽にご連絡ください。
今後とも変わらぬお付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。
敬具
4. 休眠顧客へのアプローチの手紙の例文
しばらく取引が途絶えているお客様にアプローチする際は、気まずさを感じさせない自然な書き出しが大切です。「ご無沙汰しております」という挨拶とともに、相手の状況を気遣う一文を入れましょう。
【例文】
拝啓
陽春の候、貴社ますますご隆盛のこととお慶び申し上げます。
大変ご無沙汰しております。株式会社〇〇の〇〇です。その節は大変お世話になりました。
〇〇様にご導入いただきましたサービス「△△」ですが、この度、新機能として□□が追加されました。以前お話しいただいていた〇〇という課題の解決に、より一層貢献できるものと考えております。
ご興味がございましたら、改めてご説明にお伺いできればと存じます。
また〇〇様とお仕事をご一緒できる機会を楽しみにしております。
敬具
5. 季節の挨拶(年賀状・暑中見舞いなど)の例文
年賀状や暑中見舞いなどの季節の挨拶は、営業色を出しすぎず、自然に顧客との接点を維持できる絶好の機会です。一斉送信のメールとは違う、温かみのある挨拶を心がけましょう。
【例文(暑中見舞い)】
暑中お見舞い申し上げます
盛夏の候、〇〇様におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
平素は格別のご愛顧を賜り、心より御礼申し上げます。
厳しい暑さが続きますが、くれぐれもご無理なさらないでください。
今後とも、株式会社〇〇をどうぞよろしくお願い申し上げます。
営業手紙でライバルと差をつける3つのコツ
基本の型と例文を押さえたら、次はいかにして「その他大勢」から抜け出すかです。少しの工夫で、あなたの手紙は相手の心に深く残る特別な一通になります。ここでは、ライバルと差をつけるための3つのコツをご紹介します。
1. 「あなただけ」に宛てた一文を必ず加える
テンプレートをそのまま使うのではなく、相手個人に宛てたパーソナルな一文を加えることが最も重要です。例えば、過去の会話の内容に触れたり、相手のSNSやプレスリリースで見かけた近況に触れたりするだけで、「自分のことを気にかけてくれている」という特別感が生まれます。
- 「先日の商談で伺った、〇〇プロジェクトの進捗はいかがでしょうか。」
- 「〇〇様のFacebookで、新しいオフィスへの移転を拝見しました。誠におめでとうございます。」
このような一文があるだけで、手紙は単なる営業ツールから、心と心をつなぐコミュニケーションツールへと変わります。
2. 売り込みではなく「お役立ち情報」を提供する
人は誰でも、売り込まれることを嫌います。手紙の内容が自社の商品やサービスの宣伝ばかりだと、読まれずに捨てられてしまう可能性が高まります。そうではなく、「相手のビジネスに役立つ情報を提供する」という姿勢を貫きましょう。
例えば、相手の業界に関する最新の市場レポート、業務に役立ちそうなセミナー情報、あるいは相手の趣味に関連する記事など、直接的な営業とは関係なくても構いません。「この人は自分のことを考えてくれている」と感じてもらうことが、長期的な信頼関係の構築につながります。
3. 追伸(P.S.)を戦略的に活用する
手紙の中で、本文と同じくらい、あるいはそれ以上に読まれやすいのが「追伸(P.S.)」の部分です。本文でビジネスライクな用件を伝えた後、追伸で少しだけ人間味のある個人的なメッセージを添えることで、相手との心理的な距離を縮めることができます。
- 「P.S. 〇〇様におすすめいただいた駅前のイタリアン、先日行ってまいりました。パスタが絶品でした!」
- 「P.S. 寒くなってまいりましたので、どうぞご自愛ください。」
こうしたちょっとした一言が、ビジネスライクな関係に温かみを加え、親近感を生み出すきっかけになります。
これだけは避けたい!営業手紙のNG例と注意点
良かれと思って書いた手紙が、かえってマイナスの印象を与えてしまうこともあります。ここでは、営業手紙で絶対に避けるべき注意点とNG例を解説します。会社の評判を落とさないためにも、必ず確認しておきましょう。
- 宛名の間違い:会社名、部署名、役職、そして特に相手の名前の間違いは、最も失礼にあたります。送る前には必ず二重、三重にチェックしましょう。
- 誤字脱字が多い:誤字脱字が多いと、「仕事が雑な人」「注意力が散漫な人」という印象を与えかねません。声に出して読み上げるなどして、ミスがないか確認することが大切です。
- 売り込み感が強すぎる:手紙の全面に「買ってください」「契約してください」という気持ちが出ていると、相手は引いてしまいます。あくまで「お役に立ちたい」というスタンスを忘れないようにしましょう。
- テンプレートの丸写し:誰にでも送れるような内容の手紙は、誰の心にも響きません。必ず「あなただけに宛てた」パーソナルな一文を加えることを意識してください。
- 馴れ馴れしすぎる言葉遣い:親しみを込めたつもりでも、ビジネスの相手に対して過度に砕けた言葉遣いは不快感を与える可能性があります。丁寧な敬語を基本としましょう。
まとめ:心を動かす一通で、あなたの営業を次のステージへ
この記事では、営業手紙の基本的な書き方から、すぐに使えるシーン別の例文、そしてライバルに差をつけるコツまでを解説しました。
デジタルでのコミュニケーションが主流の今だからこそ、心を込めて書かれた一通の手紙は、強力な差別化要因となります。確かに手間はかかりますが、それは相手への誠意を伝えるための価値ある「投資」です。メールでは伝えきれない温かみや人柄を伝えることで、顧客との間に揺るぎない信頼関係を築くことができるでしょう。
もし、何から始めればいいか迷ったら、まずは「商談後のお礼の手紙」から実践してみてください。この記事で紹介した構成や例文を参考に、あなた自身の言葉で、心を動かす一通を届けてみましょう。その一歩が、あなたの営業活動を新たなステージへと導いてくれるはずです。