これから営業計画を立てることになったけれど、一体何から手をつければいいのか途方に暮れていませんか。「時間をかけて作った営業計画書が、現実味がないと一蹴されたらどうしよう」「結局、今回も“絵に描いた餅”で終わってしまうのではないか」といった不安を抱えている方も少なくないのではないでしょうか。
多くの営業担当者やマネージャーが営業計画の策定に悩みますが、その背景には、体系立てて学ぶ機会が少ないという現実があります。その結果、感覚や過去の経験則だけで目標数値を設定してしまい、具体的な行動計画にまで落とし込めなかったり、チーム全体で共通認識を持てなかったりと、計画そのものが形骸化する原因になりがちです。
成果に繋がる営業計画の立て方の全ステップから、すぐに使える2種類の営業計画書テンプレート、そして最も重要な「計画倒れさせない」運用術まで、目標達成に必要なすべてを網羅的に解説します。
- 営業計画とは、目標達成までの「共通の地図」。まずは質の高いテンプレートを参考に全体像を掴むのが成功への近道です。
- 計画書には「目標(KGI/KPI)」「ターゲット市場」「具体的な戦略・戦術」「行動計画」「予算」の5項目を必ず盛り込みましょう。
- 目標は「SMART」の原則に沿って設定することで、行動に繋がりやすくなります。
- 最も重要なのは計画を作った後。進捗を定期的に確認し、チームで見直す「運用」の仕組みこそが、計画を絵に描いた餅にしないための鍵です。
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そもそも営業計画とは?目標達成に不可欠な理由
営業計画と聞くと、単なるノルマや目標数値をまとめたもの、というイメージがあるかもしれません。
しかし、本来の営業計画とは、チームが目指すゴールを明確にし、そこへ至るまでの道のりを具体的に示した「地図」であり「羅針盤」です。
このセクションでは、なぜ営業計画が目標達成に不可欠なのか、その本質的な役割と目的を解説します。
営業計画はチームの「羅針盤」
もし、航海の途中で羅針盤がなかったらどうなるでしょうか。
船員たちはそれぞれが正しいと思う方角へ進もうとし、船は目的地にたどり着くことなく海をさまようことになります。
営業チームも同じです。
明確な営業計画がなければ、メンバーは個々の判断で行動し、チーム全体の力が分散してしまいます。
優れた営業計画は、チーム全員に「どこに向かうのか」「なぜそちらへ向かうのか」「どうやって進むのか」という共通認識を与えます。
これにより、日々の営業活動に一貫性が生まれ、チームとして最大のパフォーマンスを発揮できるようになるのです。
「絵に描いた餅」で終わらせないための3つの目的
せっかく立てた営業計画を形骸化させないためには、作成時にその目的を明確に意識することが重要です。
営業計画には、大きく分けて3つの目的があります。
- 目標達成の蓋然性を高める:最終的なゴール(KGI)から逆算して、中間目標(KPI)や具体的なアクションプランを設定することで、目標達成までの道筋が明確になります。「何をすれば目標を達成できるのか」が分かるため、メンバーは迷わずに行動できます。
- 行動を具体化し、標準化する:「頑張る」「とにかく訪問する」といった精神論ではなく、「誰が」「いつまでに」「何を」「どのように行うか」を具体的に定義します。これにより、メンバー間の行動のバラつきをなくし、チーム全体の営業活動の質を高めることができます。
- 客観的な進捗管理と改善を可能にする:計画と実績を定期的に比較することで、目標達成に向けた進捗状況を客観的に把握できます。計画通りに進んでいない場合は、その原因を分析し、早期に軌道修正を行うことが可能になります。
成果に繋がる営業計画の立て方 5つのステップ
「営業計画の重要性は分かったけれど、具体的にどうやって立てればいいのか分からない」という方のために、ここからは実践的な営業計画の立て方を5つのステップで解説します。
この手順に沿って進めることで、誰でも論理的で実行可能な計画を作成できます。
ステップ1. 現状分析(市場・競合・自社の立ち位置を把握する)
計画策定の第一歩は、自分たちが今どこにいるのか、現在地を正確に把握することから始まります。
思い込みや感覚に頼るのではなく、客観的なデータに基づいて分析することが重要です。
ここでは、代表的な分析フレームワークである「3C分析」や「SWOT分析」を活用しましょう。
- 3C分析:「市場・顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3つの視点から外部環境と内部環境を分析し、成功要因を見つけ出す手法です。
- SWOT分析:自社の「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」という内部要因と、「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」という外部要因を整理し、戦略の方向性を定める手法です。
これらの分析を通じて、「どの市場にチャンスがあるのか」「競合と比べて自社の強みは何か」「克服すべき課題は何か」を明確にしましょう。
ステップ2. KGI・KPIの設定(具体的で測定可能な目標を立てる)
現状分析で立ち位置を把握したら、次に行き先となるゴール、つまり具体的な目標を設定します。
目標設定で重要なのは、具体的で測定可能な指標に落とし込むことです。
ここでは、最終目標である「KGI(重要目標達成指標)」と、KGI達成のための中間指標である「KPI(重要業績評価指標)」を設定します。
- KGI (Key Goal Indicator) の例:年間売上〇〇円、新規契約社数〇〇社、市場シェア〇%
- KPI (Key Performance Indicator) の例:月間アポイント獲得数、商談化率、受注率、平均顧客単価
目標を設定する際は、「SMART」と呼ばれるフレームワークを意識すると、より行動に繋がりやすくなります。
- Specific(具体的か):誰が読んでも同じ解釈ができるか
- Measurable(測定可能か):達成度合いを数値で測れるか
- Achievable(達成可能か):現実的に達成できる目標か
- Relevant(関連性があるか):会社の経営目標と関連しているか
- Time-bound(期限が明確か):いつまでに達成するのか期限が切られているか
ステップ3. ターゲットと提供価値の明確化(誰に、何を、どのように届けるか)
目標が定まったら、「誰に」「何を」売るのかを具体的に定義します。
市場全体を漠然と狙うのではなく、自社の商品やサービスを最も必要としている顧客層(ターゲット)を絞り込むことが重要です。
ターゲット顧客の具体的な人物像である「ペルソナ」を設定すると、チーム内でのイメージ共有が容易になります。
次に、そのターゲットに対して自社が提供できる独自の価値(バリュープロポジション)を明確にします。
「競合ではなく、なぜ自社から買うべきなのか」を、顧客の視点から簡潔に説明できるように言語化しましょう。
これが、営業活動における強力なメッセージの核となります。
ステップ4. 戦略と戦術の策定(目標達成までの具体的な道筋)
ここまでのステップで設定した「目標」と「ターゲット」を繋ぐ、具体的な道筋を設計します。
それが「戦略」と「戦術」です。
- 戦略:目標達成のための大局的な方針やシナリオのこと。「どの市場で」「どの顧客層に」「どの製品を」「どのように展開するか」といった、営業活動の方向性を定めます。(例:既存顧客へのアップセル・クロスセルを強化する、新規開拓は〇〇業界に特化する)
- 戦術:戦略を実行するための具体的な手段や方法のこと。戦略を具体的なアクションに分解したものです。(例:既存顧客向けの新機能説明会を月1回開催する、〇〇業界の展示会に出展する、Webサイトからの問い合わせを増やすためにコンテンツマーケティングを強化する)
戦略なくして戦術は機能しません。
まずは大きな方針を固め、そこから具体的な戦術に落とし込んでいくことが重要です。
ステップ5. 具体的な営業行動計画への落とし込み
最後のステップは、策定した戦術を、日々の営業活動レベルまで具体的に落とし込む「営業行動計画」の作成です。
「誰が」「いつまでに」「何を」「どれくらい」行うのかを明確に定義します。
例えば、「コンテンツマーケティングを強化する」という戦術であれば、以下のように分解します。
- 担当者:Aさん
- 期限:毎月末
- 行動内容:ターゲット顧客の課題解決に繋がるブログ記事を4本公開する
- 数値目標:記事経由での資料ダウンロード数 20件/月
ここまで具体化することで、メンバーは日々の業務で迷うことがなくなり、計画の進捗管理も容易になります。
営業計画の立て方は、企業の規模によっても重視すべきポイントが異なります。
中小企業庁の調査によれば、従業員規模が小さい企業ほど経営計画を策定していない割合が高いというデータもありますが、計画の重要性は変わりません。
- 中小企業の場合:限られたリソースをどこに集中させるかが重要になります。経営者のビジョンを強く反映させ、市場の変化に迅速に対応できるような、柔軟で実践的な計画が求められます。意思決定の速さを活かし、短期間でのPDCAサイクルを回すことを前提とした計画が有効です。
- 大企業の場合:複数の部門間での連携や、予算配分との整合性が重要になります。株主への説明責任も求められるため、より長期的で網羅的な視点に基づいた、詳細なデータ分析に裏付けられた計画が必要です。各部門の計画が、全社的な経営戦略とどう連携しているのかを明確にする必要があります。
自社の規模や特性を理解し、それに合った営業計画を策定することが成功の鍵となります。
これだけは押さえたい!営業計画書に盛り込むべき8つの必須項目
ここまでのステップで考えた内容を、上司やチームメンバーに分かりやすく伝えるための文書が「営業計画書」です。
説得力のある営業計画書を作成するために、最低限盛り込んでおきたい8つの必須項目を、具体的な営業計画書の例をイメージしながら解説します。
- 営業方針・ビジョン:チームが目指す方向性や理想像を簡潔に示します。計画全体の前提となる考え方であり、メンバーの士気を高める役割も担います。
- 前期の振り返りと課題:前期の計画と実績を比較し、達成できたこと、できなかったことを客観的に分析します。そこから見えた課題を明確にすることで、今期の計画の説得力が増します。
- KGI・KPI(数値目標):ステップ2で設定した、最終目標と中間目標を具体的に記載します。誰が見ても一目で分かるように、グラフなどを用いて視覚的に示すと効果的です。
- ターゲット市場・顧客:ステップ3で明確化した、メインターゲットとなる市場や顧客のペルソナを記載します。なぜその市場・顧客を狙うのか、その理由も併記しましょう。
- 具体的な営業戦略・戦術:ステップ4で策定した戦略と、それを実行するための具体的な戦術を記載します。戦略と戦術の繋がりが論理的で分かりやすいかが重要です。
- 営業行動計画(アクションプラン):ステップ5で落とし込んだ、担当者別・期間別の具体的な行動計画を記載します。営業活動計画を明確にすることで、実行性が担保されます。
- 必要な予算・リソース:計画を実行するために必要な人員、広告宣伝費、ツール導入費などの予算を算出します。費用対効果も示せると、より承認を得やすくなります。
- 評価指標・進捗管理方法:計画が順調に進んでいるかを判断するための評価指標と、その確認方法(例:週次の定例ミーティング、月次のレポート提出など)を定めます。
すぐに使える!営業計画書のテンプレート(無料ダウンロード)
「必須項目は分かったけれど、ゼロからフォーマットを作るのは大変…」という方のために、すぐに使える2種類の営業計画書のテンプレートをご用意しました。
ExcelとPowerPointの2つのフォーマットがあり、どちらも無料でダウンロードできます。
自社の目的に合わせてご活用ください。
【年間計画向け】汎用的な営業計画書テンプレート(Excel)
数値管理や詳細な営業行動計画の管理に適した、汎用的なExcel形式の営業計画書テンプレートです。
年間の営業計画を策定する際や、チーム内での詳細な進捗管理を行いたい場合におすすめです。
KGI・KPIの進捗管理シートや、月別のアクションプランをまとめた営業計画表も含まれており、実践的な営業活動計画の策定に役立ちます。
(ここにダウンロードボタンやリンクを設置)
【プレゼン向け】視覚的に分かりやすい営業方針テンプレート(PowerPoint)
経営層への報告や、チーム全体へのキックオフミーティングでの共有に適した、視覚的な分かりやすさを重視したPowerPoint形式の営業方針テンプレートです。
グラフや図を多用し、計画の全体像や戦略のポイントを直感的に伝えることができます。
この営業目標テンプレートを活用することで、説得力のあるプレゼンテーション資料を効率的に作成できます。
(ここにダウンロードボタンやリンクを設置)
テンプレートを自社に合わせてカスタマイズする際のポイント
提供するテンプレートはあくまで雛形です。
その効果を最大化するためには、自社の状況に合わせてカスタマイズすることが不可欠です。
以下のポイントを参考に、自社に最適な「生きた計画書」を作成しましょう。
- 業種特性を反映させる:例えば、無形商材を扱うIT業界であれば顧客との関係構築プロセスを、製造業であれば製品のリードタイムを考慮した項目を追加するなど、自社のビジネスモデルに合わせましょう。
- チームの成熟度に合わせる:新しいチームであれば、行動計画をより詳細に記載する必要があります。一方、経験豊富なチームであれば、ある程度裁量を持たせるために戦略の方向性を示すことに重点を置くなど、柔軟に変更します。
- 管理指標を絞り込む:最初から多くのKPIを設定すると、管理が煩雑になり形骸化の原因になります。まずは最も重要な指標3つ程度に絞り込み、運用が定着したら徐々に増やしていくのがおすすめです。
営業計画を「作っただけ」で終わらせないための運用術
どんなに素晴らしい営業計画を立てても、実行されなければ意味がありません。
多くの企業で計画が「絵に描いた餅」で終わってしまうのは、作成後の「運用」の仕組みが整っていないからです。
ここでは、計画を確実に実行し、成果に繋げるための3つの運用術を紹介します。
定期的な進捗確認ミーティングの仕組み化
計画倒れを防ぐ最も効果的な方法は、定期的に進捗を確認する場を「仕組み化」することです。
週に1回、あるいは月に1回、必ずチームで集まり、計画と実績を突き合わせるミーティングを実施しましょう。
このミーティングでは、単に数字の報告をするだけでなく、「計画通りに進んでいるか」「課題は何か」「次のアクションは何か」を議論することが重要です。
人事院が公表する手引きでも、評価者と被評価者間の対話の重要性が強調されており、定期的なコミュニケーションが計画の形骸化を防ぐ鍵となります。
状況変化に応じた計画の見直しと柔軟な修正
市場や競合の状況は常に変化します。
一度立てた計画に固執しすぎると、現実とのズレが大きくなり、いずれ機能しなくなってしまいます。
営業計画は「聖書」ではなく「地図」です。
予期せぬ事態が起きたら、ためらわずに地図を書き換えましょう。
例えば、四半期に一度は計画全体を見直す機会を設け、市場の変化や新たな機会に応じて戦略や戦術を柔軟に修正していく姿勢が、目標達成の確度を高めます。
チーム全員がいつでも計画を確認できる環境づくり
営業計画書が、マネージャーのPCの中にだけ保存されていては意味がありません。
チームのメンバー全員が、いつでも最新の計画を確認できる環境を整えることが重要です。
共有フォルダやクラウドストレージ、SFA/CRMのような情報共有ツールを活用し、計画書へのアクセス性を高めましょう。
計画が常に「見える」状態にあることで、メンバー一人ひとりの当事者意識が高まり、計画に基づいた自律的な行動が促進されます。
特にSFA/CRMツールは、計画の進捗をリアルタイムで可視化し、形骸化を防ぐ強力なソリューションとなり得ますが、導入目的を明確にし、自社に合った運用設計を行うことが成功の鍵です。
先輩たちの失敗に学ぶ、営業計画で陥りがちな3つの罠
最後に、多くの人が営業計画の策定で陥りがちな、典型的な失敗パターンを3つ紹介します。
先輩たちの失敗から学ぶことで、同じ過ちを避け、より質の高い計画を作成しましょう。
- 高すぎる、あるいは低すぎる目標設定:根拠なく「前年比120%」といった目標を立てたり、逆に簡単に達成できる低い目標を設定したりするケースです。高すぎる目標はメンバーの士気を下げ、低すぎる目標は成長の機会を奪います。現状分析に基づき、挑戦的でありながらも現実的に達成可能な目標を設定することが重要です。
- 曖昧で具体性のない行動計画:「新規開拓を強化する」「顧客満足度を向上させる」といった、スローガンだけの計画です。これではメンバーが具体的に何をすれば良いか分からず、行動に繋がりません。「誰が」「いつまでに」「何を」するのか、具体的なアクションプランまで落とし込むことが不可欠です。
- 現場の意見を無視した机上の空論:経営層やマネージャーだけで計画を立て、現場の営業担当者の意見が全く反映されていないケースです。現場の実態とかけ離れた計画は、実行段階で必ず壁にぶつかります。計画策定の段階から現場のメンバーを巻き込み、現実的な意見を取り入れることで、実行性の高い計画になります。
まとめ:実行可能な営業計画でチームを目標達成に導こう
本記事では、成果に繋がる営業計画の立て方を5つのステップで解説し、すぐに使えるテンプレート、そして計画を「絵に描いた餅」で終わらせないための運用術まで、網羅的にご紹介しました。
営業計画は、チームを縛るためのものではなく、目標達成というゴールまで最短距離で導いてくれる強力な武器です。
完璧な計画を目指すあまり、何も始められないことが一番のリスクです。
まずは今回ご紹介したテンプレートを活用して、計画の骨子を作成することから始めてみませんか。
そして、チームで議論しながら運用し、改善を重ねていくことで、計画は自社にとって最適な「生きた羅針盤」へと進化していくはずです。