「トップ営業マンに頼りきりで、チームとしての成果が安定しない…」と感じていませんか。部下の案件進捗が見えず、適切なアドバイスができているか不安になったり、そもそも営業活動の標準化といっても何から手をつければ良いのか分からなかったりするのではないでしょうか。
優れた営業担当者のノウハウは、個人の経験や勘として蓄積されがちで、チーム全体で学ぶ機会は意外と少ないものです。その結果、各担当者が自己流で営業活動 プロセスを進めてしまい、ノウハウが共有されず、いつまでも属人化から抜け出せないという状況に陥ってしまうのです。
営業プロセスの基本から、明日から使えるフロー図での可視化、そしてチームに定着させるコツまで、組織で勝つための仕組み作りを網羅的に解説します。
- 営業プロセスとは、属人化した営業から脱却し、チームで安定した成果を出すための「営業の型」のことです。
- まずは自社の営業活動を「見込み客創出→ヒアリング→提案」のような5〜7つの段階に分解することから始めましょう。
- 各段階の「ゴール」と「具体的な行動」を言語化し、誰がやっても同じ基準で動けるようにすることが重要です。
- 完璧なフロー図を目指す前に、まずはExcelで案件リストを作り、各案件がどの段階にあるかを一覧化するだけで大きな一歩です。
- 現場の意見を聞きながら「型を作って試す→改善する」というサイクルを回すことが、導入成功の鍵となります。
「アカウント戦略」「営業戦略」の解像度を飛躍的に高める
営業プロセスとは?その重要性と目的を解説
営業プロセスとは、見込み客との最初の接点から受注、そしてその後の関係構築に至るまでの一連の活動を、段階的に分解し、標準化したものです。
いわば、営業活動における「地図」や「型」のようなものであり、誰が担当しても一定の品質と成果を出せるようにするためのフレームワークと言えます。
近年、この営業プロセスの重要性が増している背景には、日本企業が抱える構造的な課題があります。
経済産業省の「DXレポート」などでは、多くの企業で業務が特定の個人に依存する「属人化」や、業務内容が不透明になる「ブラックボックス化」が指摘されており、これらは事業継続のリスク要因とされています。
営業活動も例外ではなく、個人のスキルに頼るのではなく、組織全体で安定的に成果を出すための仕組み作りが急務となっているのです。
1. 営業活動の属人化を防ぎ、組織力を強化する
特定の優秀な営業担当者、いわゆる「エース社員」に売上の多くを依存している組織は少なくありません。
しかし、そのエースが退職したり、異動したりすると、チーム全体の売上が大きく落ち込むリスクを常に抱えることになります。
営業プロセスを構築することで、エース社員が持つノウハウや成功パターンを「型」として組織に蓄積できます。
これにより、個人の能力だけに頼るのではなく、チーム全体の力で安定した成果を上げられるようになり、組織力が強化されます。
2. 案件の進捗を可視化し、的確なマネジメントを実現する
「あの案件、今どうなってる?」と部下に聞かなければ進捗がわからない状態では、的確なマネジメントは困難です。
営業プロセスが定義されていれば、各案件が今どの段階にあるのかを客観的に把握できます。
案件の進捗が可視化されることで、例えば「ヒアリングで滞留している案件が多いから、ヒアリングの練習をしよう」「提案の勝率が低いから、提案資料を見直そう」といった、データに基づいた具体的な改善策や的確なアドバイスが可能になります。
3. 新人教育を効率化し、早期戦力化を促す
新入社員や中途採用者が入社した際、明確な営業の「型」がないと、教育はOJT担当者の力量に左右されてしまいます。
標準化された営業プロセスがあれば、何をどの順番で学べばよいかが明確になります。
新人はゴールまでの道筋を理解した上で業務に取り組めるため、成長スピードが格段に上がり、早期戦力化が期待できます。
これは、教育にかかるコストや時間の削減にも直結します。
営業プロセスの標準的な7つのステップ(受注までの流れ)
営業プロセスのステップ数は、扱う商材や業界によって異なりますが、一般的には5〜8段階で構成されることが多いです。
ここでは、多くのBtoB企業で応用できる、標準的な7つのステップに沿って、受注までの流れを解説します。
自社の営業活動を振り返りながら、どのステップに当てはまるか考えてみましょう。
ステップ1. プロスペクティング(見込み客の創出)
プロスペクティングは、自社の商品やサービスに興味を持つ可能性のある企業や個人(見込み客)を見つけ出し、リストアップする段階です。
展示会での名刺交換、Webサイトからの問い合わせ、テレアポなどが主な活動になります。
このステップのゴールは、アプローチ対象となる質の高い見込み客リストを作成することです。
ステップ2. クオリフィケーション(見込み客の選定)
リストアップしたすべての見込み客が、すぐに顧客になるわけではありません。
クオリフィケーションは、見込み客が本当に自社のターゲット顧客となり得るか、予算や導入時期、決裁権などの観点から見極める段階です。
このステップで「追うべき顧客」と「まだ追うべきでない顧客」を選別することで、営業リソースを効率的に投下できます。
ステップ3. ニーズヒアリング(課題のヒアリング)
選定した見込み客に対して、現状の業務内容や抱えている課題、目指すゴールなどを深くヒアリングする段階です。
ここで重要なのは、自社製品の話を一方的にするのではなく、顧客の課題に真摯に耳を傾け、信頼関係を築くことです。
顧客自身も気づいていない潜在的なニーズを引き出すことが、このステップのゴールです。
ステップ4. プレゼンテーション(提案)
ヒアリングで明らかになった顧客の課題に対し、自社の商品やサービスがどのように貢献できるかを具体的な解決策として提案する段階です。
単なる機能説明ではなく、「あなたの会社のこの課題は、私たちのこの機能でこう解決できます」というように、顧客の課題と自社の強みを結びつけて説明することが成功の鍵です。
ステップ5. クロージング(契約締結)
提案内容に顧客が納得したら、契約締結に向けた最終段階に入ります。
価格交渉や導入スケジュールの調整、懸念事項の解消などを行い、最終的な合意形成を目指します。
顧客が抱える最後の不安や疑問を丁寧に取り除き、安心して契約に進んでもらうことがこのステップの目的です。
ステップ6. オンボーディング(導入支援)
契約はゴールではなく、顧客との長いお付き合いのスタートです。
オンボーディングでは、顧客が商品やサービスをスムーズに使い始め、期待した効果を実感できるように支援します。
丁寧な導入支援は顧客満足度を高め、後の追加提案や継続利用に繋がる重要なステップです。
ステップ7. アップセル・クロスセル(追加提案)
顧客との関係を維持・深化させながら、さらなる売上拡大を目指す段階です。
アップセル(より上位のプランへの変更)やクロスセル(関連商品の追加購入)を提案します。
顧客のビジネスの成功を支援し続けることで、LTV(顧客生涯価値)の最大化を図ります。
営業プロセスの可視化とは?フロー図の作り方を3ステップで解説
頭の中にある営業の流れを、チームの誰もが一目で理解できる形にすることが「営業プロセスの可視化」です。
その最も有効な手段の一つが、営業プロセス フロー図の作成です。
難しく考える必要はありません。特別なツールがなくても、ExcelやPowerPoint、あるいは手書きからでも始めることができます。
ここでは、明日から実践できるシンプルな3ステップでの作り方を紹介します。
1. 現在の営業活動をすべて書き出す(棚卸し)
まずは理想を考える前に、今、現場で「実際に」行われている営業活動をすべて書き出すことから始めます。
トップ営業マンから新人まで、複数の担当者にヒアリングを行い、顧客との最初の接点から受注後に至るまでの行動を時系列で洗い出しましょう。
- どんな情報源から見込み客を見つけているか?
- 最初のアプローチで何を話しているか?
- ヒアリングではどんな質問をしているか?
- どんな資料を使って提案しているか?
- 受注後、どんなフォローをしているか?
この「棚卸し」作業が、実態に即した営業 業務フローを作るための土台となります。
2. 各ステップのゴールとアクションを定義する
次に、書き出した無数の活動を、前述の7つのステップのような大きな塊(フェーズ)にグルーピングします。
そして、各ステップにおいて最も重要な「ゴール(完了条件)」と「主なアクション(行動)」を明確に定義します。
例えば、「ニーズヒアリング」のステップであれば、以下のように定義します。
- ゴール:顧客の課題と予算、決裁者を特定し、次の提案のアポイントが取れている状態。
- 主なアクション:ヒアリングシートを用いて質問する。議事録を作成し、顧客に送付する。
このように基準を明確にすることで、「ヒアリングが終わった」という担当者間の認識のズレを防ぎ、誰がやっても同じ品質で業務を進められるようになります。
3. フロー図に落とし込み、関係者と共有する
最後に、定義したステップ、ゴール、アクションを視覚的なフロー図に落とし込みます。
四角形や矢印といった簡単な図形を使い、「どのステップからどのステップに進むのか」「進むための条件は何か」が一目でわかるように整理しましょう。
完成したフロー図は、必ず関係者全員で共有し、レビューを行います。
「この流れは現実的ではない」「ここの判断基準が曖昧だ」といった現場からのフィードバックを元に修正を重ねることで、より実用的な営業プロセス フローが完成します。
専用ツールがなくても、Excelの図形機能やSmartArt機能を使えば、簡単に営業プロセスのフロー図を作成できます。
例えば、以下のような表形式で整理するだけでも、十分に「見える化」の一歩となります。
- ステップ名:各段階の名前を記載(例:ニーズヒアリング)
- 目的:そのステップで達成したいことを簡潔に記載(例:顧客の課題を深く理解する)
- 主なアクション:具体的な行動を箇条書きで記載(例:ヒアリングシートの送付、アポイント調整、ヒアリング実施)
- ゴール(完了条件):次のステップに進むための条件を明確に記載(例:課題と決裁者が特定できている)
まずはこのようなシンプルな形で自社の営業プロセスを図にしてみることから始めてみましょう。
営業プロセスを導入・定着させるための3つの重要ポイント
素晴らしい営業プロセス フロー図を作成しても、それが現場で使われなければ意味がありません。
プロセス導入が「やらされ仕事」になって形骸化してしまう失敗は、多くの企業が経験するところです。
ここでは、作成した営業プロセスをチームに定着させ、成果に繋げるための重要なポイントを3つ紹介します。
1. 最初から完璧を目指さない(スモールスタート)
最も重要なのは、最初から100点満点の完璧なプロセスを目指さないことです。
あまりに細かく厳格なルールを設けると、現場の負担が増え、かえって反発を招く原因になります。
まずは主要なステップだけを定義し、管理もExcelの案件リストから始めるなど、スモールスタートを心がけましょう。
「不完全でも良いから、まずはやってみる」という姿勢で第一歩を踏み出し、運用しながら改善していくことが成功の秘訣です。
2. 現場の営業担当者を巻き込んで作る
営業プロセスは、マネージャーが一人で考えてトップダウンで押し付けるものではありません。
実際にそのプロセスを使うのは、現場の営業担当者です。
プロセスの作成段階から現場のメンバーを巻き込み、彼らの意見やアイデアを積極的に取り入れましょう。
「自分たちで決めたルール」という当事者意識が生まれれば、プロセス導入への心理的な抵抗は大きく下がります。
現場の実情を最もよく知る彼らの知恵を借りることが、実用的なプロセスを作る上で不可欠です。
現場の協力を得るためには、コミュニケーションの仕方が非常に重要です。
- 目的を共有する:「なぜプロセスを作るのか」を丁寧に説明しましょう。「管理を強化するため」ではなく、「みんなが楽に成果を出せるようにするため」「ノウハウを共有してチームで強くなるため」といったポジティブな目的を伝えることが大切です。
- ヒアリングに徹する:意見を求める際は、「今のやり方で困っていることはない?」「もっとこうなったら楽になると思う点は?」など、相手の課題や要望を引き出す質問を心がけましょう。
- 小さな成功体験を共有する:プロセスを導入して少しでも改善が見られたら、「〇〇さんの案件、プロセス通りに進めたらスムーズに提案まで行けたね!」のように、小さな成功をチーム全体で共有し、プロセスの有効性を実感してもらう機会を作りましょう。
3. 定期的に見直し、改善を繰り返す
一度作った営業プロセスが、未来永劫通用するわけではありません。
市場の環境、顧客のニーズ、競合の動きは常に変化します。その変化に合わせて、営業プロセスも柔軟にアップデートしていく必要があります。
月に一度、あるいは四半期に一度など、定期的にチームでプロセスを見直す会議を設定しましょう。
「このステップはもっと簡略化できる」「新しいアプローチ方法を試そう」といった改善を繰り返すことで、プロセスは陳腐化せず、「生きた仕組み」として機能し続けます。
まとめ:営業プロセスを構築して「仕組みで勝てる」組織へ
本記事では、営業プロセスの重要性から、具体的な7つのステップ、そして可視化と定着のためのポイントまでを解説しました。
営業プロセスを構築することは、単に業務を標準化するだけではありません。
それは、個人の才能や経験といった不確実なものに依存する「属人的な営業」から、組織の力で安定的に成果を出す「仕組みの営業」へと転換するための、最も重要な経営戦略の一つです。
完璧なものを目指す必要はありません。
まずはこの記事を参考に、自社の営業活動がどのような流れで行われているのかを「棚卸し」することから始めてみてはいかがでしょうか。
その小さな一歩が、チームを「仕組みで勝てる」強い組織へと変えるきっかけになるはずです。